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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)11687号 判決

原告

御手洗徹男

原告

新井清

原告

内村金平

原告

浦川勇次

原告

児玉六八

原告

佐藤聖生

原告

谷口哲也

原告

塚原信義

原告

藤井政弘

原告

松浦良夫

原告

盛島英利

原告ら訴訟代理人弁護士

井上二郎

中島光孝

被告

住友金属工業株式会社

右代表者代表取締役

小島又雄

被告訴訟代理人弁護士

石井通洋

高坂敬三

夏住要一郎

間石成人

鳥山半六

岩本安昭

阿多博文

田辺陽一

伊藤憲二

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの申立て

一  被告は、各原告に対し、別紙請求額目録記載の各原告名欄に対応する合計額欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日から各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言。

第二事案の概要

一  前提となる事実及び当事者の主張は、別紙事実整理案のとおりである。ただし、その第三葉「原告らの主張」欄三行目の「原告らに対し、」の次に「主位的に平等に取り扱うべき債務の不履行により、予備的に不法行為により、」と加える。別紙事実整理案の前提となる事実は、当事者間に争いがない。

二  争点は、被告に本件加算特別扱いによる上積金又はこれに相当する損害金の支払義務があるか否かである。

第三当裁判所の判断

一  原告らの主張は、要するに、被告が第一次受領者及び第二次受領者に加算金を支給しながら、同じく被告の従業員である原告らにこれを支給しなかったのは、平等取扱義務に反するもので、債務不履行又は不法行為となるというものである。

ところで、(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、住金ゼネラル株式会社、住金ゼネラル建材株式会社及び被告のマンパワーリフレッシュセンターの再編に伴い生じる余剰人員二八〇人について、他の部所(ママ)において退職者を募集し、配転により、その後任に右余剰人員を充てることはそれぞれの部所に必要な人員が配置されていることからすれば困難であり、また、従前の退職優遇制度ではこれに応じる者の数にも限界があったことから、希望退職者を増加させる目的で、加算金支給を決めて退職勧奨したものであると認められる。憲法及び労働基準法が平等原則を定めるのは原告ら指摘のとおりであり、労使の協議において組合員の異動について公正妥当を期して扱う旨の合意がされていることも認められるが、その規定や合意があらゆる労働条件やこれに付随する事項について機械的な平等を要求するものでないことは明白であり、右のような退職金に対する加算金は、退職勧奨に応じる対価であるから、退職を勧奨する必要性の度合いにより、その時期や所属部所によって、その支給額が変わっても、基本的には応諾は労働者の自由な意思によるものでもあり、平等原則に違反するとはいえないというべきである。そして、右認定のように、被告には、住金ゼネラル株式会社、住金ゼネラル建材株式会社及び被告のマンパワーリフレッシュセンターにおいて、特に、多人数の希望退職を求める必要があったのであるから、平等取扱い義務違反があったということはできない。

また、原告らは、退職優遇制度の説明を聞いたときに、「同一条件で対応する。」「これ以上は出ない。」などと説明されたといい、これらをもって、被告が、第一次受領者又は第二次受領者と平等に扱うことを約したかのようにいうが、右説明によって、被告が、第一次受領者又は第二次受領者と平等に扱うことを約したというのは無理な推論である。右説明によって、原告らが原告らと異なる部所の者又はその後に退職する者に原告より多額の退職金が支払われることはないと信じたとしても、他の部所で又はその後に退職金に加算金を上積むこととなったからといって、被告に原告らに対しても加算金を支払わなければならない義務が発生するものでないし、原告らに法律上保護されるべき期待権が生じるものではない。

さらに、原告らは、平等取扱の労使慣行があったというが、本件全証拠によるも、退職勧奨の場合の退職金に加算される金員について、部所による退職勧奨の必要性の度合いを無視して平等に扱わなければならないというような労使慣行が存在したとは認めることができない。

二  (証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、平成七年七月から九月までに退職した者について本件加算特別取扱を実施した後、同年四月から同年六月までに退職した者についても、加算金を支給したのであるが、原告御手洗徹男は、平成七年三月三一日、和歌山製鉄所のマンパワーリフレッシュセンターを退職したものであり、一日の違いで、加算金の支給を受けることができなかった。同じ職場で退職しながら一日の違いで、加算金の有無という差が生じることには非情なものがあるが、第二次受領者については、本件加算特別取扱の実施前の退職者について加算金支給を遡及実施したもので、第二次受領者に加算金請求の権利があってされたものではなく、かかる遡及については、無制限に遡ることはできず、画一的に処理を要するものであるから、原告御手洗徹男が加算金の支給を受けられなかったこともやむを得ないところである。

三  以上によれば、被告が、原告らを本件加算特別取扱について第一次受領者又は第二次受領者と平等に扱うことを約したとはいえず、被告に平等取扱義務はあるといえても、部所による退職勧奨の必要性の度合いを無視して平等に扱わなければならないとまではいえず、原告らについて、被告に原告らを第一次受領者又は第二次受領者と平等に扱わなければならない債務があったとはいえず、また、平等に扱わなかったことが不法行為になるともいうことができない。

四  よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 川畑公美 裁判官和田健は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 松本哲泓)

請求額目録

〈省略〉

平成10年(ワ)第11687号 退職金等請求事件 事実整理案

第1 原告らの申立て

1 被告は、各原告に対し、別紙請求額目録(省略)記載の各原告名欄に対応する合計額欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日から各完済に至るまで年6分の割合による金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

第2 前提となる事実

1 当事者

(一) 被告は、鉄鋼・非鉄金属及びそれらの合金の製造及び販売等を目的とする株式会社であり、平成10年10月時点で資本金が2379億2247万円である。被告は、和歌山市湊1850番地所在の和歌山製鉄所、小倉製鉄所、製鋼所等において製鉄事業を営む。被告は、住金ゼネラル株式会社(以下「住金ゼネラル」という。)、住金ゼネラル建材株式会社(以下「住金ゼネラル建材」という。)、住金プラントテクノス株式会社(平成5年7月、住金和歌山プラント株式会社に商号を変更)等の関連会社を有する。また、被告は、和歌山製鉄所内における余剰人員の職種転換のための職業訓練等を目的として「マンパワーリフレッシュセンター」(以下「センター」という)という部署を設けていた。

(二) 原告藤井(以下、各原告は氏で特定する。)は小倉製鉄所に、原告盛島は製鋼所にそれぞれ採用され、その後、被告の和歌山製鉄所(以下、単に「和歌山製鉄所」という。)に転勤してきた者であり、その余の原告らはいずれも和歌山製鉄所に採用された者である。各原告の採用年月と退職年月、並びに退職時から定年(60歳)までの期間は次のとおりである。

なお、被告の就業規則によると、定年で退職する日は、定年到達日が1月1日から3月末日までの者は3月末日、4月1日から6月末日までの者は6月末日、7月1日から9月末日までの者は9月末日、10月1日から12月末日までの者は12月末日となっており、以下の退職時から定年までの期間は右就業規則に基づく。

原告御手洗 昭和42年1月17日採用、平成7年3月31日退職、定年までの期間10年10か月

原告新井 昭和42年3月23日採用、平成6年10月18日退職、定年までの期間9年6か月

原告内村 昭和45年3月9日採用、平成7年6月30日退職、定年までの期間13年6か月

原告浦川 昭和39年1月10日採用、平成7年1月31日退職、定年までの期間10年2か月

原告児玉 昭和40年4月7日採用、平成7年10月31日退職、定年までの期間13年8か月

原告佐藤 昭和38年11月11日採用、平成7年6月30日退職、定年までの期間8年6か月

原告谷口 昭和42年1月24日採用、平成7年4月30日退職、定年までの期間9年11か月

原告塚原 昭和40年3月採用、平成7年3月20日退職、定年までの期間8年6か月

原告藤井 昭和36年9月4日採用、平成7年6月30日退職、定年までの期間1年6か月

原告松浦 昭和45年11月3日採用、平成6年10月24日退職、定年までの期間10年2か月

原告盛島 昭和35年7月22日採用、平成7年5月31日退職、定年までの期間3年10か月

(三) 前記退職時における各原告の在籍部署または出向先企業は次のとおりである。

原告御手洗 和歌山製鉄所のマンパワーリフレッシュセンター

原告新井 住金和歌山プラント株式会社

原告内村 和歌山製鉄所の製銑工場

原告浦川 住金マネジメント株式会社

原告児玉 有限会社伊藤建材

原告佐藤 和歌山製鉄所の表面処理工場

原告谷口 和歌山製鉄所の第二製鋼工場

原告塚原 日本リックウィル株式会社内仁木工業

原告藤井 和歌山製鉄所の製銑工場

原告松浦 住金和歌山プラント株式会社

原告盛島 和歌山ビルサッシ工業株式会社

2 被告における定年及び退職金支給条件

(一) 被告の就業規則によれば、被告と雇用契約を締結した労働者は、満60歳に達した以後初めて到来する3月末日、6月末日、9月末日、ないしは12月末日のいずれかの日をもって定年退職することとされている。

(二) 被告は、平成6年10月、就業規則所定の退職金とは別に、次のような内容の退職金特別優遇制度(以下、単に「優遇制度」という。)を実施することとした。

(1) 優遇制度の適用対象

年齢満45歳以上で、定年年齢前に自己の都合により退職を願い出て許可された者に対しては、所定の退職金に替えて、次の(2)により算定した退職金を支給する。但し、退職事由により事情詮議の上、本取扱を行うことが適当でないと認めた場合には、適用しないことがある。

(2) 支給金額

退職時の基本給及び勤続年数に基づき、定年退職扱いとして算定した金額に退職日より所定定年退職日までの残年数に応じて1年当たり200万円で算出した金額を加算金として支給する(残年数が10年以上の者は一律2000万とする。)。

なお、残年数10年未満の対象者に、所定の定年退職日までに1年未満の端数がある場合、1か月当たり16万7000円を支給する。

(三) 被告の提案による優遇制度は労使の合意に達し、前記内容どおり実施された。優遇制度は、いわゆる早期退職優遇制度として位置づけられる。

3 上積金の支給

(一) 被告は、優遇制度による加算金のほか、住金ゼネラル及び住金ゼネラル建材への出向者並びにセンター在籍者のうち平成7年7月ないし9月に退職した者に対してのみ、さらに残年数1年当たり50万ないし100万円で算出した金額(以下「上積金」という)を支給することとし(以下「本件加算特別取扱」という。)、これを実施した(以下、この段階での上積金受領者を「第1次受領者」という)。

優遇制度の適用者は1168名、このうち出向社員は777名(このうち、被告と資本関係にある関連企業への出向社員は577名)、右出向者のうち本件加算特別取扱により上積金が支給されたのは、310名である。

(二) また、被告は、いずれも平成7年4月ないし6月に被告を退職した岩岡弘ほか15名(以下「第2次受領者」という。)から上積金の請求を受け、平成7年9月、残年数1年当たり50万円で算出した上積金を支給した。

4 原告らと被告の交渉

(一) 平成8年1月、原告らは「退職金優遇制度を見直す会」(以下「見直す会」という。)を発足させ、会長に訴外恵良征三(以下「恵良」という。)が、世話役に原告御手洗が選出された。同年3月25日、見直す会は、被告に対し、95名の署名のある文書によって上積金についての要求を行った。

(二) 原告御手洗ら5名は、平成10年7月31日到達の書面で被告に上積金の支払を求めたが、被告は同年8月28日到達の書面で拒否の回答をした。また、原告新井ら6名は、同年8月27日到達の書面で被告に上積金の支払を求めたが、被告は同年9月2日到達の書面で拒否の回答をした。

原告らの主張

被告の主張

1 原告らに対する平等取扱義務

1

〈1〉使用者は、労働契約関係において信義則上労働者を平等に扱う義務がある(労働基準法3条、民法1条2項参照)。また、〈2〉被告と鉄鋼労連住友金属和歌山労働組合(以下「本件組合」という。)との労働協約26条に基づき合意された「議事録確認書」6項は、労働条件について労働組合員を平等に扱う趣旨を定めており、これは労働契約の内容となっているから(規範的部分の直律的効力)、被告は、労働者を平等に扱う義務がある。さらに、〈3〉出向先や勤務部署に関わらず、各労働者の社員番号の変更もなく、被告における資格制度、給与制度が適用され、被告が勤務状況を管理するなど、労働者を労働条件の面で「住金社員」として平等に扱うことは労使慣行となっていた。

従って、被告は、個々の労働者の同意がない限り、上積金支給について、原告らを第1次受領者及び第2次受領者と平等に扱うべき義務があり、原告らは各退職時点において既に平等に扱われるべき権利(不平等取扱がないことを解除条件とする)、少なくとも平等に扱われるべき地位を有する。これは、退職後であっても、退職金の支払においては、同様である。被告が岩岡ら第2次受領者に上積金を支給したのは、退職後であっても退職金の支払については平等に取り扱うべき義務を依然として負担しており、右義務に基づいて上記上積金を支給する義務があると考えたからである。

従って、被告は、原告らに対し、少なくとも残年数1年当たり50万円の上積金を退職金として支払う義務がある。

優遇制度や加算金の支給といった恩恵的な給付については、企業の経営状態、社会情勢等の諸般の事情を考慮した高度な経営的判断による政策的なものであり、どの関連会社もしくは部署の従業員を対象とするかについて使用者である被告に広範な裁量がある。被告は、住金ゼネラル、住金ゼネラル建材及びセンターの再編に伴い、一度に280名もの余剰人員が発生し、出向等の雇用対策が困難であると見込まれたため、本件加算特別取扱を導入した。

また、被告は、住金ゼネラル、住金ゼネラル建材及びセンターの再編並びに本件加算特別取扱について本件組合とも協議を重ね、労働協約も締結している。

労働条件は、「国籍、信条又は社会的身分」等を理由とする差別のように、法令で禁止されている場合、あるいは労働協約や就業規則で個別的労働契約に直律的効力が及んでいる場合以外は、契約自由の原則のもと、当事者の自由な意思に委ねられており、原告らの主張するような平等取扱義務はない。後述のとおり、加算特別取扱の適用対象は、国籍、信条または社会的身分による差別ではない。

労働協約26条及び議事録確認書6項は、加算特別取扱を排除するものでないことは明か(ママ)であるし、そのような労使慣行もない。

労働契約に基づく請求権は、少なくとも労働契約終了前に具体的に発生していることを要するところ、原告児玉を除く原告ら10名は、加算特別取扱が実施された平成7年7月の段階で既に退職していたのであるから、これらの者に労働契約に基づく請求権が発生する余地はない。原告らの主張する権利は抽象的であり、解除条件も成就する可能性のない不合理なものである。

2 被告の主張は、原告らの不平等な取扱いを隠蔽するためのものである。

住金ゼネラル、住金ゼネラル建材及びセンターの退職者だけに加算するのは差別であり、そのような認識があったため、第2次受領者の請求に応じたり、見直す会に早期退職者の相談窓口の業務を委託し、3000万円程度を支払うとの提案を行ったのである。退職金特別優遇制度に関する協定覚書(〈証拠略〉、以下「覚書」という。)は、労使の合意に基づくものではないし、被告の加算特別取扱の適用は不合理で恣意的なものである。

2 被告和歌山製鉄所は、優遇制度に加え、次の内容の本件加算特別取扱を実施していた。覚書は労使協定として有効である。

なお、被告が見直す会と交渉したことはあるが、原告らに上積金を支給することを約したことはなく、単に、見直す会に早期退職者の相談業務を委託し、被告が委託料を支払う形での解決を検討したことがあるだけである。

(一) 対象者

住金ゼネラル及び住金ゼネラル建材への出向者並びにセンターに勤務する者で、平成7年7月6日(鉄鋼労連住友金属和歌山労働組合に対して加算特別取扱を提案した日)から、同年9月30日までの間に優遇制度により退職した者。

ただし、その後、同年4月1日以降に退職した者に適用を拡大した。

(二) 加算金の額

(1) 退職日より所定退職日までの残年数1年当たり50万円を500万円を上限として加算支給し、

(2) さらに、優遇制度による残年数1年当たりの支給額200万円と加算金50万円を足した250万円が退職時の年収の50パーセントに満たない場合、あるいは、退職後の経済的事情等により得(ママ)に配慮が必要であると被告が認めた場合は、500万円を上限として残年数1年当たり50万円の範囲内で加算支給する。

(三) 住金ゼネラル及び住金ゼネラル建材は、被告から業務を受託して、被告和歌山製鉄所の余剰人員の雇用確保の役割を果たしてきたが、平成2年度以降の業界を取り巻く環境の悪化により、被告においては経営改善を余儀なくされ、平成5年以降は被告からの業務委託も減少し、他部門も業績が悪化し、事業再編と人員の適正化を図る必要が生じ、右2社合計280名の余剰人員を生じた。

また、センターも、余剰人員の職種転換訓練等を目的とする部署であり、雇用環境の悪化から、新規出向先を確保することが難しくなり、その余剰人員が人件費圧迫の一因となっていた。

被告において、センターの余剰人員削減と右2社の事業再編のため希望退職者の増加を図ることとして、本件特別加算を実施したのである。なお、その後、実施時期を4月1日まで遡及したが、これはその段階で本件特別加算を検討していたこと、被告では、従前から退職金支給基準については3か月遡及する扱いをしていたことによる。

(四) 右加算の扱いは、被告の経営者としての裁量の範囲内である。

(五) 原告らは、いずれも右対象者ではない。

3 不法行為

3

(一) 平等取扱義務が、労働契約の内容となっていないとしても、不平等な扱いは、信義則上、不法行為に当たる。仮に原告らに上積金を請求する法的な権利がなかったとしても、第1次受領者及び第2次受領者への支給の経過及び原告らと被告の交渉経過において、「上積金が退職金として支払われる利益・地位」が形成されている。優遇制度に基づく加算金や第2次受領者に対する上積金の支払は、被告による恩恵的給付ではなく、近代的労使関係のもとでの労働契約ないし平等に取り扱うべきであるとの労使双方の規範意識に基づくものである。原告らの「上積金が退職金として支払われる利益・地位」も同様であって、少なくとも労使の右のような規範意識に基づいて形成されたものである。

(二) 原告らは、被告の支給拒否により、第2次受領者と同様に、定年までの残年数1年当たり少なくとも50万円の金額で算出した上積金を退職金として支払われる利益・地位が侵害された。ただし、定年までの残年数が10年を超える場合は10年を上限とする。

優遇制度や加算金の支払いといって恩恵的給付については、企業の経営状態、社会情勢等の諸般の事情を考慮して高度な経営判断による政策的なものであり、どの関連会社もしくは部署の従業員を対象とするかについて被告に広範な裁量があり、被告は加算特別取扱いについて裁量権の濫用がないから不法行為は成立しない。

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